統計学を拓いた異才たちを読んだ

 2月ぐらいに、ナイチンゲール統計学を始めたとか始めないとかtwitterでなんか盛り上がっていた(らしい)ことがあって、そこで"統計学を拓いた異才たち"というタイトルの本がおすすめされていたので読んでみることにした。そもそも、統計学についてはあまり詳しい知識がなく、頻度論はフィッシャーとかネイマン・ピアソンとかよくわからん、ややこしいなぁ、ぐらいの認識しかなかったので、歴史の方向からも勉強を進めることで、もうちょっと詳しくなりたかったという思いもあった。
 本書には、カール・ピアソンから始まり、フィッシャー、ネイマン、エゴン・ピアソン、ウィルコクソン、コルモゴロフ、ゴセット(スチューデント)など、どこかで名前を聞いたことがあるような人々がズラズラ出てくる。彼ら彼女らがどのような問題にであい、どのようにして解決したかについての大まかな内容がたくさん描写されており、細かい部分については省略されている。
 カール・ピアソンは記述統計学と呼ばれる分野で貢献した人で、ピアソンの積率相関係数(単に相関係数というとこれを指すそうだ)やカイ二乗検定は彼の仕事である。フィッシャーは十分統計量や最尤法、フィッシャーの判別関数など、様々な手法、概念を提案した。カール・ピアソンはフィッシャーの仕事を尊重せず、この二人は仲が悪かった。ネイマンはエゴン・ピアソンとともに、仮説検定の考え方を確立した。エゴン・ピアソンはカール・ピアソンの息子であるが、ネイマン・ピアソン流、といった時のピアソンは息子の方である。父とは違いフィッシャーの仕事を尊敬していたが、フィッシャーからは父同様に攻撃されることとなった。これはフィッシャーの方の性格に問題があったふうに描写されている。
 本書の中に出てくる人々は統計学に貢献をして名を残した人ばかりなので頭のよい人ばかりなのであるが、その中でフィッシャーとコルモゴロフの扱いは別格であり、天才として扱われているように感じた。数学の歴史についての本を読んでいると、時代のところどころでポロッと天才が出てきて一気に議論を進める、というような場面が出てくる。場合によっては早すぎて同時代の人間には理解されないことすらあり、そんな場合の天才は不幸であるとしか言いようがないが、フィッシャー、コルモゴロフの場合は幸運にも周囲に理解され、存命中に大家として扱われていたようだ。
 他にもたくさんの人物が出てくるので、統計学をどのような人々がつくってきたのかということを知りたければ、一読する価値はあると感じた。ただ、縦書きであることからもわかる通り、統計学についての本ではなく、統計学に貢献した人々についての本であるので、トピックの配置は人物が中心になっており、今読み返しても、どこに何が書いてあったかを見つけるのはすごく大変だった。統計学について知りたいのであれば普通の教科書を読んだほうが良いだろう。教科書は定理と証明の繰り返しで分かりにくかったりするので、勉強する意味が分からなくなったときにはこういった本が役に立つだろう。1200円と文庫本にしてはちょっと高いが、教科書の副読本だと考えればほら、急に安く見えてきた。
 当初のナイチンゲールの疑問に戻ると、本書によれば、ナイチンゲール統計学を始めたというと言い過ぎではあるが、彼女は統計学を医学のために活用した最初期の人物の一人であり、パイチャートはナイチンゲールの発明である。また、ナイチンゲールの友人は敬愛する友人の名前を自分の子供につけ、その子供フローレンス・ナイチンゲール・デイヴィッドはなんやかやで統計学者になり、統計学の分野で大きな功績を残した。9冊の本と100編以上の論文を書いたというのだからすごい。

統計学を拓いた異才たち(日経ビジネス人文庫)
デイヴィッド・サルツブルグ
日本経済新聞出版社
売り上げランキング: 91127