脳とか目とか

 またしばらく仕事が忙しくって他のことがストールしてたんだけど、先週、おおきなタスクが一つ終わったので、やっと仕事以外のこともできる余裕が出てきた。
 早速コードを書くかと思ったんだけど、仕事でアウトプットばっかりしてたこともありなにかインプットしたい心持ちがしたので、本を3冊ほど読んでみた。簡単に感想文を書いてみたい。

単純な脳、複雑な「私」

 この本はかなり面白かった。高校生に対する講義形式ということもあり、この分野の素人にもわかりやすい。面白かったことを以下にリストアップしてみる。

  • 人間は顔の左半分の方をよく見てる。確かにそうだった。
  • 意識は正解を知らないのに、無意識に正解を選ぶことができるような問題が存在する。例えば、サブリミナルな実験をすると、質問の仕方によっては無意識のうちに正解を選ぶ確率が有意に高くなる事がある。意識にまで登ってこずに処理される事はたくさんあるというのは知ってた(歩く時の動作とかね)けど、質問に対して回答するという意識的(であるようにみえる)な動作に対して無意識が関わってくるというのが面白い。
  • 人間は作話する、つまり行動や記憶に対して後付けで説明を考える。しかもそのことを意識していないし、場合によっては記憶を改変してまで作話する。
  • 人間の時間に対する感覚はかなりあやふやである。
  • 人間は、腕を動かそうと考えて、動いたと感じて、それから実際に動かしている、らしい。
  • ミスをする時には、大体6秒前ぐらいにはミスしそうだというのが脳波から分かる。(参考文献とされてる論文をチラッと読んでみたけど、今のところはミスが完全に予測できるという話ではなく、脳波の状態によってミスする確率が低いか高いかを判断できる、という話であるようだ。)
  • ニューロンは同じ入力パターンを入れると同じ出力パターンが出てくるぐらいに精密な回路である。しかし、実際には入力信号の方にノイズが乗っているので、そのノイズによって出力パターンが揺らぐ。このゆらぎが大事である。局所解からの脱出とか、確率共振とか。

 「無意識」とか「ゆらぎ」とか言うとなんだか急に胡散臭く聞こえるけど、実験に基づいているので怪しくはない。それにしても、無意識というのは一体何なんだろうか。この本を読んでこれまでよりも無意識を意識するようになったけれど、これがいったいなんなのか、よくわからないというか、実感が持てない。脳は面白いなぁ。
 あと、きちんと参考文献として論文が参照されているのもよかった。興味を持ったときにちゃんと論文に当たれるというのはとてもよい。日本でもちゃんと参考文献をつけるという風習が根付いたらいいな。

本当にすごい!iPS細胞

ほんとうにすごい! iPS細胞
岡野 栄之
講談社
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 ムサシ遺伝子の発見などのくだりが面白かった。日本に持って帰れなかった事情などはもっと詳しく知りたいけど、これぐらいが限界なんだろうなぁとも思う。
 知らなかったこととしては、

  • iPS細胞はすごく腫瘍化しやすい(逆に言うと、ES細胞はiPS細胞ほど腫瘍化しやすくはないということだ)
  • ニューロンは大人になってからは増えないといわれていたが、実際には増える!
  • 脊髄が損傷した場合、マクロファージが損傷した脊髄を食べてしまい、そののちにグリア瘢痕ができる。これが神経の再生に対して悪影響を与えている。つまり、神経自体は、再生能はあまり高くないものの、再生する。

 あたりが面白かった。

眼の誕生

眼の誕生――カンブリア紀大進化の謎を解く
アンドリュー・パーカー
草思社
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 目という体組織は、すごい複雑なわけだが、この複雑な体組織は進化の過程で何度も発生したものらしい。まぁ、昆虫の複眼と人間の単眼では仕組みも全然違うし、考えてみれば当たり前の話ではあるんだけど。
 「眼の誕生」は、そういったいろいろな動物種における目の発生とその構造についての本…ではない。主にカンブリア爆発について書かれた本である。カンブリア爆発と呼ばれる現象は、カンブリア紀(5億年ぐらい前)にすごい勢いでたくさんの動物種が発生したという出来事である。カンブリア爆発というイベントが起こった根拠は化石で、この年代を境に出てくる化石の種類が全然違うらしい。このカンブリア爆発の原因として、筆者は新しい学説である光スイッチ説というのを著者が提案しているのだが、それを提案するに至った過程を丹念に書いてある本である。
 筆者は、カンブリア爆発の原因として、原始三葉虫が目を獲得したことを挙げている。これによって「積極的な捕食者」という概念が生まれ、そこから爆発的な進化が始まった、としている。つまり、視覚なしで遠方の情報を得ることが難しく、視覚を得ることで初めて効率的に捕食を行うことが可能になり、この捕食行為が淘汰圧となり、「食うもの」「食われるもの」が爆発的進化を始めた、という説である。
 かなり突拍子もない説であるように感じられるが、筆者は光スイッチ説に至った過程を詳細に記しており、確かに説得力がある説であると感じられた。例えば、単純な光に反応するだけの期間が眼に進化するには、多く見積もっても50万年あれば可能であるとか、カンブリア時代よりも前の時代の化石からは眼が見つからないとか。
 視覚が一番捕食に適した感覚器官であることは確かだが、聴覚、嗅覚もセンサーとしては有効である。捕食を引き起こした原因がなぜ視覚だったのか、という点に関しては、明解な理屈がつけられたらよいなと思った。

色々読んでみて

 空中を走る車どころかリニアモーターカーすらいつになったら実現するのやら、といった感じで、いまいちパッとしない21世紀だけれど、知らないうちに学問はものすごいスピードで進歩しているのだなぁという事が実感できた。人類の歴史でこれほどのスピードで科学技術が進化していく時代があったかと思うと、本当によい時代に生まれたものだと思う。(正直に書くなら、100年後ぐらいに生まれてみたかった気もするけどね。)